計画どおりかどうか

 有料記事ではあるが、「インフレ知らず悲観的…物価2%、ゆとり世代が壁 (10/31 日本経済新聞)」の記事に関して話題になっていたので普段あまり触れない(というか触れたくない)領域なのだが、少し触れてみることにする。

 内容としては、有料部分を読もうと読むまいとあまり意味がなく、よくある「ゆとり世代の消費意欲が少ないせいで景気が云々」という話に過ぎない。
 ただ、多分有料部分で最も重要な要素は『記者は1993年生まれの23歳』という著者の属性と事実を積み上げるのではなくあらかじめ結論が設定された上での書きっぷりで、文章構成としては事実を積み上げてるっぽい構造ではあるが論理性に難があるもしくは飛躍がありすぎるという、Fラン大学生が与えられた課題について無理やり書いたレポートを読んでいるかのような気持ちにさせられ、悲しい気分になるということぐらいだと思われる。
 とはいえ、全国紙を有する大手メディア企業の本体で記者として採用されるなど、私のようなFラン卒の者からすれば天と地どころの騒ぎではない差があることからすれば、はたしてそういった構成を巧妙に真似たのか、なにか別の真意があるのかと勘ぐってしまう。
 そもそも著者が23歳であることから記事のつかみに持っていっているのだが、それを提示しいくつかの経験談から入る意義はかなり薄い。
 『物心ついたころ』から『居酒屋にサラリーマンが吸い込まれていく』につながるのは強引かどうかという話以前に、万人向けの全国紙の読者を想定するとすればリアリティに乏しいと認識する読者も多いと感じられる。
 およそ、こういったつかみに多くの要素をぶっこんだあげく記事の中身で一切触れないのならその要素を1つか2つ程度に絞り込むのが鉄則だと聞いたことがあるのだが、少なくともデスクの添削などを受けているはずであることを考えれば、狙っていると考えてもいいような気がする。
 有料部分だが、そのひとかたまりを例示してみると、『インフレを知らないからお金を寝かしておくリスクにも実感がわかない。野村証券の試算によると29歳以下の若者の1年後の物価上昇予想(期待インフレ率)は1.9%だ。全世代平均は2.1%で、インフレを知らない若年層の物価上昇「期待」は一貫して低めだ。』とある。
 要はインフレを実体験していない年齢層は期待インフレ率が低いという統計資料から別の仮説(その前後からいうと貯蓄率が高いという方向)につなげようとしている。
 終始こういった無理やりさが記事全体に仕込まれており、ネタに事欠かない関係上、話題になるのもさもありなんという気もする。
 考えようによっては、ゆとり世代はインフレも知らないバカばっかだから貯金してんだぜ、マジないわあ、と煽られていると受け取る者がいたとすれば、たとえ著者が同じ世代であっても炎上やむなしといえなくもない。
 あと、個人的に金を使えば直結してインフレになる(消費者物価指数が上がる)のかどうか分からない。
 結局そういう部分には触れていない。(アホには分からんということか。しかたがないにゃあ〜)

 既に複数の者が指摘しているようだが、ゆとり世代が貯蓄を増やして消費をしない、ということを説明するのに当該年齢層の貯蓄率の増加を挙げているのだが、単純化した図式でいけば、年収100万で消費に80万まわす者ばかりでも年収1000万で消費に800万まわす者ばかりでも数値は同じである。
 基本的に年収の中央値のトレンドとセットで考察するなどの必要があるのでは、という話である。
 個人的には、他の数値を分析していないのだが、年金制度などの老後の問題などを考慮すれば目減り率が極端に高い制度をあてにするより原本が保証される貯蓄の方がマシであり、そういった自衛としての心理に基づくトレンドではないかと想像するのだが、あくまで推測でしかない。
 著者が例えば10ヵ年計画でゆとり層の貯蓄率を年-5%、最終-50%に国策として強制すれば消費者物価指数の2%目標が達成できるといった試算があるのならば興味深く記事を読むことも可能だったのだが。
 あと、感覚的な話だが、年寄りからこの記事を見ると古きよき時代の「貯蓄は豊かな証拠」的な発想が鼻についてしかたがない。
 こういったところが、本当に23歳なのか?中の人は50台とかじゃないのか?などと思えてくる違和感がある。
 実際、EU諸国で貯蓄率の高い国の多くは労働環境があまりよくなかったり、老後不安などの問題を抱えていることが多く、およそ貯蓄率の高さから単純に豊かさに置き換えることはできなくなっていることぐらいは、経済紙の記者であれば常識的に知っていそうな話ではある。



 ちなみに、この記事のオチは『インフレを知らない世代が、インフレをもたらす日はそう遠くないかもしれない。』である。
 えーと。
 遠くないんだ・・・・・