昨日のWBS

 日本郵政のTOLLにおける業績不振で数千億円規模の損失を計上する可能性があることが報道されていた。
 番組内では特に触れてはいなかったが、結構前から自らの利益のために子会社化したのなら、それに見合うような大胆な絞込みが必要だと言われ続けて2年ぐらい放置してこれたんだから、数千億円程度どってことない、という経営判断だったのだろうと私は思う。(企業としてそれでいいのかどうかは別)
 で、番組自体も構成がその具体的問題というよりは、M&Aについての日本企業の失敗について焦点が当てられていた。
 一応、流れとしてはウエスチングハウス、スキンカリオール、ランバクシーの買収を例に挙げ、買収先のガバナンス体制が適切でなかったというのを方向性としていた。
 と、しながらも、コメンテータの梅澤氏がそれを混ぜっ返して、それは必要条件ではあっても十分条件ではない、M&Aのれん代はつきもので、それゆえその差額は買収先の業績を改善するか買収先との大きな相乗効果を得るか(いわゆる1+1は2以上という話で語られるような鉄則)で埋め合わせなければ減損せざるを得なくなる、という話で締めくくってしまっていた。
 実のところ、WBSのコメントというものが、どこまで番組制作と切り離されたコメンテータ独自のものかよく分からない場面もちょくちょくある(逆にフリップがあるときは確実に仕込んでいるのだろうと思えるが)のだが、今回はどっちなんだろうとか思ったりした。
 それはそれとして、個人的には、何のために、もしくはM&Aの後にどうしたいという意志があって買収しているのかがまずあると思う。
 その多くはカネのため、で片付けてしまうことが可能かも知れないが、もう少し踏み込んで考えるとして、例えば、市場で劣勢であるがゆえにそれをどうにかするために買収するのか、後続をさらに蹴散らすために当該領域で鍵となる因子を持つ企業を買収するのとでは、その後の扱いというものは違ってくる。
 また、市場によっては、弱弱連合の烏合の衆でも規制業種であるがゆえに企業の資産価値の合算額が大きければそれだけで企業価値が上がってしまう(まぁ、これはそうじゃない領域にいるからという意味でのやっかみでもあるが)こともあるわけで、何のために買収し、何がしたいかという部分が合致しないとM&Aの成否は判断できないように思える。
 実際、専門家の話、として触れられていた『とにかく海外の会社を買わなければ』という発想というのは、負け組の足掻きとしての行為に当たるため、不純すぎて足元を掬われたり、のれん代という意味で足元をみられたり、買収後が腰砕けになってしまったりして失敗するのは枚挙に暇がない。
 そして、その上のレベルとして、買収後にどうするのか、という部分に関しての具体的な方針、方策、計画と実施に際して適切に遂行できるようにするガバナンスなどを含む体制がどうあるべきなのか、という話になろうかと思う。
 そしてさらにその上のレベルで制約をかけているのが、梅澤氏のいうそもそも企業として価値がある状態でいること、として設定されるものであろうかと思う。
 で、番組内で大型買収の失敗について例示したものの、なぜそれらが失敗したのか具体的に解説しないという大きな買収の失敗というぼんやりしたネガティブイメージだけを示すようなつくりになっていたのが少し物足りないわけではあるが、そんなことを丁寧にやっているとWBSの時間内にさえ終わらないので仕方がないのかもしれない。
 個人的にTOLLは、郵政民営化で当時盛んに参照されたドイツポストと形的に同じような手法をとってはいるが、はたしてドイツポストに続く二匹目のドジョウとして自らを存在たらしめる能力はあるんだろうか、と思っていた。
 個人的に(くどいけど)ウエスチングハウスは、過去にも書いたが、国策として買収という行為が適切なのか?という気はしていた。
 業態自体がセンシティブな話なので詳しくは書く気もないが。
 個人的に(くどいけど)スキンカリオールは、当時欧州勢さえ買うのを嫌がっていたというレベルだというように聞いていたので、もう一蓮托生、かの地で骨をうずめる覚悟なんやろなぁ、とか思っていたら、さくっと切り飛ばしてしまったのには、驚いたという感じではある。
 ビール事業以外は残してもよかったんじゃないかと思ったりはしたが、本体が嫌なものをあえて残す道理もないわけで、その方が双方幸せなのかもしれない、とか思ったりしたものだ。
 とはいえ、だれも買わなかった会社が売却できる状態(今のところオランダのハイネケンに売却するらしい)にまで再建したという意味では、本体側の金銭的な話を無視すると失敗事例ではなく成功事例として扱ってあげてもいいようには思う。(孝行息子でなかっただけで独り立ちはしたということかと)
 個人的に(くどいけど)ランバクシーは、第一製薬と三共が合併でごたごたしていた直後の大型買収なわけで、一気呵成に行くのか吉か、それともそもそもセクショナリズムの大きい製薬会社で社内の地固めもそこそこに打って出ていいんだろうか、と思ってはいたが、後者のデメリットが極大化されるようなアメリカでの事件があったために不幸な結果となったようには思う。
 後々の新聞や雑誌記事を読んでいたころの気持ちを書き起こすとすれば、この事例は結果として買収先のガバナンスの問題というより買収元のガバナンスの問題な気はしたが、言ってどうなるわけでもない。
 で、並べてみて分かるのは、結局双方が儲かってないと失敗するという非常に単純な話だということかと思う。
 要は企業として体を成すための1つとしてガバナンスや事業戦略とかがあるわけで、ガバナンスをがんばってます、といかにアピールしようと企業として体を成していないならば、ガバナンスができていないと判断されるのがオチというだけのことだろうと思う。
 そんなことは、だれも分かっていることだとは思うが、私なんかより何万倍も優秀な者が多数張り付いている会社でもそれがなし得ないのは、言うは易し、といったところなのだろうか。
 インタビューされていた専門家曰く『もっと出てくると心配している』とのことだが、中国からの撤退組もまだ残っているような状態で新たに増えてくるんかいな、と嘆息してしまった。
 とはいえ、形式上「しんがり」に相当する者は、かなり討ち死にして残ってないとも聞いたりする(特に小、零細企業の話)ので、今後はそのしかばねをうっとうしそうに蹴り飛ばしながらその多くが撤退するんだろうなぁ、と他人ごとながら考えてしまった。