フジパン

 「金型外さず菓子パン販売 フジパンストアー (4/3 日本経済新聞)」ということで、食品不祥事ネタである。
 さすがに歯にひびが入るのは審美的な意味からすると一生涯の問題としてついて回る事案であるため、個人的には致死率の極端に低い食中毒などと比することもできないほどの重大事案であると思えるが、今年になってから細々とやっている「事後対応がなんやそれ」的案件だとは言いがたい気がする。
 実態として、Twitterでもその対応の遅さやその内容の優柔不断さ(というか練れていない感が強い気はする)が問題視されてはいるようだが、悪い意味での構造的弊害に起因していると思えるから、ということになる。

 ちなみに、この事案の話題が出回り始めた当初は、「フジパン」だということだった。
 フジパンというと、一般にはスーパーなどの小売店舗で袋詰されて他の商品群と同様に陳列販売され一緒にレジで精算するタイプの商品としてのメーカーの1つとして認知されていることが多いように思う。
 トピック的なところからすると、パッケージの電話番号に電話すると地域の民話が聞けるとか、一般消費者向けだけではなく例えばマクドナルドのバンズを作っていたりする(あらためてググってみたら関東とかは今はフジパンではないらしい。知識古いな、オイ。)。
 で、フジパンは大規模な工場を持ち大量生産する製造業者に当たるわけだが、こういった大規模な工場生産型の設備を運用している中で、パンの中に金属製のコルネ型(生地を巻きつける金型。正式名称はなんていうのか分からないけど)が残存したまま出荷されるとすれば、まず、
 ・出荷前の金属探知は有効に機能していたのか
 ・生産ラインの部品の遺失、脱落が見過ごされた結果をどう考える/考えていたのか
 ・コルネという商品の特性上、これまでの製造手法におけるリスクに関して相当数の知見が蓄積さているはずだが、商品に残存しないようにすることへの行動、プロセス等に対してリスクヘッジ側に振っていないのはなぜか
 ・同様にその知見の積み重ねによって適切な対応等が整備され有効に機能するように規定されているはずだが、Twitterを見る限り数ヶ月かかるという理由は何なのか
を考えてしまった。
 が、実際のところ、先の記事にあるように「フジパン」ではなく「フジパンストアー」である。
 経済的、会社組織的な意味合いとしては、いずれもフジパングループ本社(持ち株会社)が株式を100%保有するため兄弟関係にあたるが、規模や歴史的な経緯、順列からすると感覚的には親子関係と捉えても厳密な場面でなければさほど大きく影響しないようには思う。
 さて、個人的には、フジパンストアーってまた愛知ローカルな話だなぁ、とか思っていたのだが、HPを見ると結構全国に店舗があるらしい。
 「フジパン」というような名前がついてなくて何種類かのブランド名で展開しているっぽく、全く知らなかった。
 ただ、フジパンは先に書いたとおり工場で大規模生産を行ういわゆるホール系であって、フジパンストアー側は各店舗で手作り(どこまでを手作りするかは分からないが)し、少なからず店舗内で焼成し、その場で販売する形態であるいわゆるリテール系と呼ばれる販売形態を行っていることに変化はないようである。
 で、こういった1箇所、もしくは拠点集約的に大規模生産するという業態から現地小規模生産と現地販売のセットの業態に移行する、もしくは進出する際には、様々な問題点が指摘されていて、そういった企業が多い関係上、その成功、失敗事例から様々なノウハウ本が出るほどの領域ではある。
 今回の事案の企業側の対応が後手に回る理由の1つとして考えられるのは、こういった関連事業でありながら同一な対応、改善手法が適用できない、もしくは適用が効果的ではないという問題が露見したものではなかろうか、という気はする。
 また、昨今のパンの店舗販売におけるトレンドにも起因するのではないか、という気も個人的にはする。
 というのも、昨今の店舗単位で店舗内で焼き上げた手作りパンを安価に適切な在庫調整をしながら売って利益をあげるというビジネスモデルを持ったチェーン店が人気を集めている(いや、そういう店舗が単に目に付くだけかもしれないが)ように思うが、利益率から考えて、冷凍種を用いずに売り切れや売れ残りといった機会損失や廃棄ロスを極限まで減らすことは、ある程度まではシステマティックな手法によるとしても、かなりの部分はその場の要員にしわ寄せが行っているような気がしなくはない。
 チェーン系のリテール型店舗で安さを売りにしているところも近所にあったりするが、すごく失礼千万な言い方になるが、自らが想像する作業の大変さと販売単価の不釣り合いから作業している人たちが奴隷っぽく思えて悲しくなっていつもその店を通り過ぎてしまったりしている。
 それはそれとして、記事にも『外した後の金型の個数の確認を怠ったのが原因』とあるように、その原因をさかのぼって行けば、単純に管理を徹底すればいい、というレベルの話なのか、どこかここかでもはやシステム自体に無理があるということなのか考える必要はあるのかもしれない。
 作為的見方ではあるが、記事内にある提示されたとされる改善策の『金型をシリコーン製に変更する』というものは、混入を前提としたリスクテイクであると仮定すると、「システム自体に無理がある」という限界が見えているから、という気もしなくはない。


 あと。
 実際、当該店舗でコルネをどうやって作っているのか気になるんだけど、、、
 だいたい、コルネ型がパンに埋没するような焼き方を商用ベースの製作現場でやってしまうものなのか?と思うのだが、どうなんだろう。
 そもそもパンを崩さずにきれいな形のまま引き抜けないと思うのだが。
 もし、埋没していないならば、チョコレートを注入する段階や陳列の段階等で店側が気付くはずで、さらに言えば、少なくとも購入者が歯にひびが入るような食べ方ができるとは思えないわけで。
 先述のとおり、システム的な問題ではないかと考えてみたものの、こういった結構腑に落ちない正しくつながらない箇所も情報が少ないだけにあったりするが、そういった完全に特定個人に起因するものは、いろいろあるのかもしれないので、突っ込まないことにする。
 加えて、非常に私的な話ではあるが、今回の件に対して、船橋氏は草葉の陰で泣いてるんじゃないかと思ってしまうんだけど、これはこれで何ともいえないところではあろうかと。