朝OK 夜OK


かい、とかいう人

 時事的にはかなり時期を逸してしまって古い話になってしまった(単に書きかけで放置していただけ)のだが、一部で『隗より始めよ』ということばが出てきて、結構、というか、かなりげんなり、よりかは、いやな気分になったりした。
 当の『隗より始めよ』という発言に付随した、というかその逆の持論を表現するために用いたことに伴う『隗より始めよ』という表現に対して、その持論の側の是非やら何やらをとやかく言う気は毛頭なく、単純に『隗より始めよ』ということばそのものに激しくネガティブに、というか直情的な否定を伴う感情を引き起こしたに過ぎないので、一部バズっている(ググったりしたレベルでは持論側ばっかりだったし)だの何だのというのとはおよそ無関係だったりする。
 『隗より始めよ』というのは、聞いたことがなくても、感覚的に末尾の終助詞「よ」がある関係で古い成語、多分古文か漢文とかの領域なんだろうなぁ、と想像できるんじゃないかと思う。
 実際、これは漢文の領域で、殷の後である春秋戦国時代(国内ではまだ縄文時代付近)の話だったりする。
 で、先の発言で用いられた『隗より始めよ』という表現は、いわゆる「お前がな」とか「てめぇが先やれや」といった意味の言い出しっぺシステムに言及したもので、昨今の辞書的意味と合致するものだが、漢文でよくある故事成語の原典を読んで成り立ちを云々というのには、向かない。
 というのも、少なからず、原典から読み解くことで得られる教訓のようなもの(当時の教訓)の意味から現代のそれに大きく変質していることがあると思う。
 果たして、『隗より始めよ』の意味について正しいのはどれか、という問題に、「自己を推挙すること」とか「自身を売り込むこと」とかいった選択肢があった場合、それを誤答とすべきかどうかというのは悩ましいところじゃないのかなぁ、とか個人的には感じる(およそ、試験のような白黒つける必要がある領域ではふさわしくない)けども、多分、先述のとおり、「言い出した者から始めなさいということ」とか、個人的にあまり使われているように思えないけども、辞書的には「手近なところから始めること」とかいうような選択肢でなければ正答ではない気がする。
 ここで、どう変遷して今の意味になっているのかは多くの学者方が解説しているんじゃないかと思うけれども、個人的には、成語という単語の並びのみが残った上で、「隗」などという馴染みのない文字をすっ飛ばし「○○より始めよ」という表現から教訓めいた意味を連想しながら○○を埋める(実際には口語に近づけるためには「より」を「から」に読み替える必要はあるが)ことで生成されてしまったんじゃないのかなぁ、とか思ったり。
 で、意味はともあれ、原典を非常におおざっぱに、かつ記憶をたよりに脚色して書くと、隣国に攻め込まれぐだぐだになりながらもどうにか再興した王が隗に対して「隣国に伍する国にするべく賢者を集めたいんだけど、どうしたらいい?」と聞いたら「俺雇えよ、俺を厚遇したら俺より有能な奴がわんさか集まるぜ」と応えたという話である。
 この原典に私が触れたのは中学の時だったと思うのだけども、当時、個人的に、理にかなった論法なり法則なり経験則といったような確率論なりに押し込めるとしても到底正しいとは思えなかった。
 その理由は、例えば、昨今の極端に効率化された人事システムではない高度成長期での企業のような組織内においてさえ、無能な者が重用される現場を好きこのんで有能な者が意図して選択し、所属しようとするのだろうか、と、社会経験がないレベルでも感じてしまえたことによるものだったのだが、そういった部分に適切な回答を与えてくれる教員は当時いなかった。
 実際のところ、小学校の社会科レベルで知覚することができる社会的な事物に対する感覚というものの多くが、資本主義社会などといったキーワードで表現される現代の社会システムによりほぼ無意識に形成されていることを考えれば、平安時代よりもさらに向こう側の年代における社会システムなどとは明らかに相容れない箇所が多分にあると思えるわけで、そういった部分にひっかかってしまったがゆえの理解不能な何かなのか?、という疑問もあったのだが、これについても同様だったりした。
 また、原典の内部の逸話がすごくて、主君が「いい馬、買うてこい」と家来に金を渡して買いにいかせるも死んだ馬を買ってきて、主君が激怒したら、家来は「死んだ馬にさえ大金を積む客なんだから、いい馬も融通してくれるってもんだ」と言い訳したという話だったりする。
 いやいや、死んだ馬に大金積む客が存在するなら、店側は処分費用がかかるだけの死んだ馬とか死にかけの馬をかき集めてその客に売りにいくでしょ、と。
 そもそも客側がバーターに持ち込むとかいった商売上の駆け引きが存在するにしては、先に損をするという極端な逆ばりに対して主君が激怒するあたり、そんな権限が与えられているようにも思えないし、当時から普通にテレビのニュースになっていた業務上横領をした人の醜い言い訳と相通じるものがあるなぁとか思ったりしていた。(さすがにここなあたりのつっこみについては質問したりはしなかったが)
 さらに世界史の細かい部分になってくるけども、前王が宰相に盲従したがゆえに滅亡の危機に瀕したというのに、現王に「俺を重用しろ」と言う方も言う方だし、聞き入れる方も聞き入れる方だとげんなりしたものである。
 とはいえ、歴史から言えば、当の王は大成功を収める。
 結論としては、結果として良好な成果を導いた手法はいずれも悪手ではない(転ずれば、他者の好手は自身が用いても必ずしも良好な成果を生み出すわけではない)、ということなんかなぁ、適用条件も教訓もくそくらえじゃん、とさらに激しく忌避したものである。
 結局、そういった経緯から、聞きたくないことばの並びだったわけだけど、もう1ヶ月経ったし、流行ってたりは・・・しないよね・・・